セラピストにむけた情報発信



車いすに関するセラピストとの共同研究成果−Higuchi et al. 2009



2009年2月9日

車いす利用者の”車両感覚”は,どの程度正確だろうか?

本日ご紹介する研究は,頸髄損傷により長期にわたって車いすを利用している人たちの車両感覚について,神奈川リハビリテーション病院の理学療法士・波多野直先生,ほか3名の理学療法士の方々と共同で研究した成果です.

Higuchi T, Hatano N, Soma K, & Imanaka K (2009) Perception of spatial requirements for wheelchair locomotion in experienced users with tetraplegia. J Physiol Anthropol 28(1),15-21



      

   【写真】共同研究をおこなった神奈川リハビリテーション病院の理学療法士の皆様.
       (左から藤縄光留氏,森田智之氏,波多野直氏,相馬光一氏.2004年撮影)



健常者が車いすの車両感覚をつかむのは,予想以上に難しいという結果(Higuchi et al. 2004)を受け,長年車いすを利用されている患者さんの場合はどうであろうか?という問題を検討いたしました.

実験課題は,約3m先に様々な大きさの通過口を呈示し,車いすを使って接触することなくそのスペースを通過できるかどうかについて,Yes-No形式で判断してもらうという課題でした.

この判断そのものは視覚的な判断ですが,一般に車いすの幅がどの程度かを知覚するための有力な情報源は,車いすのハンドリムを握った時に得られる体性感覚的な情報です.ところが実験対象とした頸髄損傷患者さんの場合,上肢の感覚が麻痺しているため,この有力な情報源を利用することができません.

そこで,彼らが通常使用している車いすだけでなく,少し幅の広い標準型車いすを利用した場合でも,正確な判断ができるかを検討しました.

その結果,頸髄損傷患者さんは通常使用している車いすだけでなく,標準型車いすに対しても,接触せずに通過できるスペースとできないスペースを正確に判断できることがわかりました.すなわち,車幅に関する体性感覚的な情報がなくとも,慣れていない車いすに必要な車両感覚が「視覚的にわかる」といえます.

実験の成果はもちろんのこと,実験に至るまでに必要な様々なプロセス,実験の合間に理学療法士の方々からお伺いした話題など,得るものが多くありました.実験成果を論文化するのに5年もの歳月がかかってしまい,関連の皆様に多くの迷惑をおかけしてしまいましたが,今後も臨床の現場で実験することから多くのことを学び,有益な情報を発信することができればと考えています.

引用文献
Higuchi, T.,Takada, H., Matsuura, Y., & Imanaka, K. (2004). Visual estimation ofspatial requirements for locomotion in novice wheelchair users. Journal of Experimental Psychology: Applied, 10, 55-66.



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